なんでもなる木

 都会から離れた山奥の小さな村に、ちょっと変わった木が一本生えていた。村の中心に生えたその木には様々な果物がなっていた。りんご、かき、みかんなど季節に関係なく、一年を通して色鮮やかに実を枝につけ、そこに立っていた。

 村の人々は基本的に畑での農業を生業としていたが、台風などの自然災害によって不作の年には、その木から果物をとって生活をしていた。

しかし果物はいくらとっても減ることはなく、むしろ年々果物のなる量は増えていった。

 そんな不思議な木の噂を聞きつけた学者たちが村に調査をしにやってきた。村の人々は最初は村の大切な木を傷つけられてしまうのではないかと猛反対したが、学者たちから多額のお金をもらい、これに納得した。

学者たちはあらゆる方法で木の謎を解明しようとしたが、詳しいことは何もわからなかった。木になっている果物の種から新しくなんでもなる木を育てようと試みたが、りんごやみかんの木が生えてくるだけだった。

その後、その木は一般の人々にも知れ渡り、たくさんの人が村を訪れ始めた。村の人々は、最初はよそ者が村に入ってくることをよく思っていなかったが、ある者がこの木を利用して商売をしようと言い出した。

村の人々はそれに賛同し、その木からとれる果物に値段をつけて売ってみた。するとこれが大盛況となった。普通の果物の数倍の値段に設定しても飛ぶように売れた。さらに人々が村を訪れるようになり、すっかり村は観光名所となった。

 村の人々は果物だけでなく、その木にまつわる様々な商品を作り販売した。饅頭やキーホルダー、木をモチーフにしたキャラクターまでデザインし、全国に宣伝をした。

 年々村を訪れる人の数は増加し、どの商品もよく売れた。観光客が増えても木になる果物が不足することはなく、むしろ果物の種類も増え始めていった。

 村の人々は、観光業に専念し、すっかり農業を放棄してしまった。

 そして十数年後、観光客は次第に減っていき、商品もほとんど売れなくなってしまった。最初は人々も物珍しさ故に村を訪れていたが、その木からとれるのはただのりんごやみかんである。味も普通で特別おいしいわけではないのだ。

 村の人々は何とか観光客を呼び戻そうとしたが、これといった案はでなかった。しかし木には無限に果物がなるので村の人々は生活には困らなかった。

村の人々は観光業は止め、その果物を全国に売って生活をするようになった。彼らはただ木から果物をとるだけで、他は何もしなくてよかった。

 そしてさらに数年後のある日、村の人々がいつものように木から果物をとろうと木の下までやってくると、昨日まで色鮮やかに数十種の果物がなっていた木から、果物が一切なくなっていた。

最初は泥棒の仕業だと思っていたが、その日から二度とその木に実がなることはなかった。

 村の人々は生活に困り、また農業を再開しようとしたが、畑はすっかり荒れ果ててしまっていて、何も育てることはできなかった。

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